菩提樹の庭

2013 Hiroko Murayama - artwork 2009-2016,
Hasselblad 500cm, color negative film


「菩提樹の庭」は、2009年~2015年にかけて制作したネガフィルム作品です。 時間をかけて作品と向き合いたいと考え、暗室での手焼き作業を通し、2016年に完成しました。

一人っ子で、両親と祖父母と5人家族。小学校の同級生は10人。 愛知県豊田市の田舎で祖父母と暮らした20年間。

私が祖父母からもらったものは、 両親の愛情とは違った、自然で奥深い優しさと、そこから生まれる安心感でした。 その安心感がいつまでも続くのだと無邪気に思っていた日々から、 いつの日か祖父母を亡くす日が来ると知った日を境にして、幼い私の心には、薄く影が落ちるようになりました。

20代になって家を離れ、東京で一人暮らしをしながらカメラアシスタントをするようになっても、忙しい日々の隙間でふと襲ってくる寂寥感。見ないふりをして過ごすことに限界を感じたとき、私は、ハッセルにネガフィルムを詰めて家に向かいました。

春、祖父母の傍らで写真を撮る日々――、 ある日、畑仕事の合間に祖母が笑顔でこう言いました。

「ひろちゃんの小さい頃はいろんなところへ一緒に行ったねえ ありがたかったねえ。おばあさんは長く生きて来たけど、沢山の思い出があるから、もう、それだけで生きていけるよ。」

「ーああ、こういうことなんだな。」

祖父母との時間に「限りがある」という事実は受け入れがたいままだとしても、ただただ、祖母の言葉に安心したのでした。 安心したら、自分の見える世界が急に明るくなりはじめました。

私はいつまでも祖父と祖母の手のひらの上で、安心しきって遊ぶ、小さな子どもでいることができる。

2人の手のひらは、果てしなく大きいから、 私がどこに住んでいたって、誰といたって、 その大きな手のひらの上からはみ出すことはないのだから。